俘虜収容所に響いた日本初の第九
どんな伝承か
大正六年、四国徳島の坂東の町(いまの鳴門市大麻町)に俘虜収容所が設けられ、第一次大戦の青島の戦いで捕らえたドイツ兵およそ千人が送られてきた。閉じ込められた暮らしに殺気立つこともあったが、所長の松江大佐の英断で外出が許されると、町の人々との交わりが始まり、乳牛の飼い方や野菜づくり、音楽などが伝えられ、敵味方の間に深い信頼が生まれたという。大正八年に講和条約が結ばれて帰国が近づくと、別れを惜しむ展覧会と演芸会が開かれ、日独合同の楽団がベートーベンの第九交響曲を演奏した。これが日本で初めての第九の演奏だといわれる。跡地にはドイツ館があり、俘虜が架けた石のメガネ橋が残る。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
現代民話考 ― 軍隊(松谷みよ子・民話・口承文芸)
『現代民話考 ― 軍隊』は、松谷みよ子が編んだ、軍隊と戦争をめぐる現代の民話の集成である。日本民話の会の雑誌『民話の手帖』での呼びかけやアンケート、聞き書きによって寄せられた話をもとに、十五年戦争を中心に徴兵検査から新兵のしごき、戦地、虐殺や飢え、敗戦、収容所、戦犯、軍隊生活の怪談までを収める。巻頭に序文「明日の民話のために」と論考「軍隊考」を置き、十三の部に分けた各話の末に話者と回答者の名と在住地を記す。