屍室で手をふりほどいた死者
どんな伝承か
昭和二十年頃、弘前市の弘前陸軍病院での話。死者が出ると、引き取り者が到着するまで屍室に安置し、衛生兵を一人つけておく。時折は死体と一対一で通夜ということもあった。夜中に死体が動き出して衛兵を殴りつけるという噂は聞いていたが、実際に、手術の効もなく死亡した患者をすぐ屍室へ運び、寝台大の台の上に仰向けに寝かせて胸の上で手を組ませておいたところ、それが真夜中に、組ませておいた手をふりほどいて、すぐそばにいた語り手の頭を殴りつけられた。そのときは生きた心持がしなかったという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
現代民話考 ― 軍隊(松谷みよ子・民話・口承文芸)
『現代民話考 ― 軍隊』は、松谷みよ子が編んだ、軍隊と戦争をめぐる現代の民話の集成である。日本民話の会の雑誌『民話の手帖』での呼びかけやアンケート、聞き書きによって寄せられた話をもとに、十五年戦争を中心に徴兵検査から新兵のしごき、戦地、虐殺や飢え、敗戦、収容所、戦犯、軍隊生活の怪談までを収める。巻頭に序文「明日の民話のために」と論考「軍隊考」を置き、十三の部に分けた各話の末に話者と回答者の名と在住地を記す。