戦死公報から二十年後に生還した兵
どんな伝承か
戦争が終わって二十年ほどたったころの話。知人の嫁ぎ先の近所の息子は、ニューギニアで戦死したと公報が来ていたが、生きているとの知らせが入り、新聞社のヘリコプターが飛んでくる騒ぎになった。豆腐を切っていた母親は驚いて取り落とし、一週間ほど放心していた。部隊が全滅して戦友と二人取り残された息子は、穴や椰子の木の上で二十年を過ごし、登ってくる錦蛇を棒でたたいて焼いて食べ、帽子のガラス飾りで日の光を集めて火を起こし、砂の色の違う所を掘って水を得た。火を焚いてようやく見つけられ、一年ほどで帰ったが、四十代で白髪になり歯も無く、帰ってからも辛いことが多かったという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
現代民話考 ― 軍隊(松谷みよ子・民話・口承文芸)
『現代民話考 ― 軍隊』は、松谷みよ子が編んだ、軍隊と戦争をめぐる現代の民話の集成である。日本民話の会の雑誌『民話の手帖』での呼びかけやアンケート、聞き書きによって寄せられた話をもとに、十五年戦争を中心に徴兵検査から新兵のしごき、戦地、虐殺や飢え、敗戦、収容所、戦犯、軍隊生活の怪談までを収める。巻頭に序文「明日の民話のために」と論考「軍隊考」を置き、十三の部に分けた各話の末に話者と回答者の名と在住地を記す。