夢で魂を飲んだつもりが南京鼠
どんな伝承か
文化三年の夏、番町あたりに住む御番衆の布施金蔵が昼寝をし、小僧に足腰を叩かせてうとうとしていた。夢の中で魂が口から抜け出たのを見て驚き、あわてて捕まえて口へ押し込み飲み込んだと思ったところ、喉や胸をかきむしられるように苦しくなった。人を呼んでようやく落ち着き、小僧はどうしたと問うと、小僧は隣の間で泣いていた。わけを聞くと、もらった南京鼠をかわいがっていて、主人が寝入ったすきにそばで放して遊ばせていたら、主人のあくびをした口に飛び込んでしまい、尻尾をつかんで引き出そうとしたが尻尾だけちぎれたのだという。家の者は驚いて医者を呼び吐き薬を与えたが、男はその後も腹や胸を病み、ついに亡くなったという。
原典より
文化三年の夏の頃、番町辺布施金蔵といふ御番衆、昼寝して足腰を小僧に為敲、とろと眠りしに、…—— 耳嚢(みみぶくろ)(根岸鎮衛・江戸随筆・怪異・1809年(文化6年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
耳嚢(みみぶくろ)(根岸鎮衛・江戸随筆・怪異・1809年(文化6年))
『耳嚢(みみぶくろ)』は、根岸鎮衛(守信)が勤めの合間に古老や訪ねて来た人から聞いた話を書き留め、佐渡在勤のころからまとめ直して文化六年仲秋に結びを付した随筆である。武家・町人の逸話や奇談に加え、狐・狸・幽霊・妖獣などの怪異、羽蟻や虫歯・ものもらいを治めるまじない、薬の秘法を、一項ずつ題を掲げて記す。この本文は著者の自叙と巻之一から巻之十まで(巻之四を欠く)の抜粋で、巻末に著者の結びと『耳嚢副言』の一部を置く。