夜更けに飴を買いに来る婦人
どんな伝承か
長柄に來秀次郎が営む「大将飴」という飴屋があり、夫婦と店員の市松の三人で暮らしていた。近所の店が閉めたあとの客を拾おうと、よそより一時間遅い夜十二時近くまで店を開け、評判を上げていた。九月のある夜の十一時半ごろ、市松が雑誌を読んでいると、三十近い品のよい婦人がかすかな声で飴を求めた。十銭分と言うので竹の皮に包んで渡すと、婦人は痩せた手で受け取って十銭紙幣を置き、音も立てずに店を出て、煙のように姿を消した。市松はおかしいと感じながらも、店を片づけて二階で寝た。
原典より
或附近の家も寝静まつた九月某日の夜の十一時三十分頃大將飴の店員市松が雑誌を讀んでゐると『お邪魔ですが飴を下さい!』三十歳近い品格の好い婦人の幽かな聲がある—— 幽霊は語る(梶天真・1938年(昭和13年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
幽霊は語る(梶天真・1938年(昭和13年))
『幽霊は語る』は、梶天真が編んだ幽霊譚と幽霊論の集成で、昭和十三年に文明社から出た。新聞・雑誌の記事や井上円了・柳田國男・高峰博らの所説、古典の文を出典を添えて引き、葬送の習俗や布哇の霊魂観から説く幽霊思想、幻覚や網膜による説明、乃木大将が見た我が子の幽霊などの実話を集める。三篇に分かれ、第二篇は男女の幽霊・怨霊・生霊・小児の見た幽霊・前知らせなど八項、第三篇は幽霊写真・化物屋敷・霊界通信を扱い、巻末を夕張と筑前の幽霊問答で結ぶ。