銭箱に残る一枚の木の葉
どんな伝承か
婦人は翌晩もその次の晩も、決まって店じまいの時刻に十銭で飴を買いに来た。静かな夜なのに下駄の音一つ立てないのが妙だった。やがて毎朝銭箱を数えると、木の葉が一枚ずつ出てくるようになった。主人に問われた市松は、毎夜来る婦人の客に心当たりがあると打ち明け、紙幣に見せかけた木の葉を受け取っていたのだろうと叱られた。そこで市松は、婦人が十一時四十分ごろに来ると、受け取った十銭紙幣を銭箱に入れず帳場の脇に置いて見張った。紙幣に変わったところはなく、怪しいのは足音がしないことと、一町ほど行くと煙のように消えることだけだった。
原典より
それは其婦人が飴を買いに来てからと云ふものは、毎朝計算する錢箱の中から一枚の樹の葉が現はれる。—— 幽霊は語る(梶天真・1938年(昭和13年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
幽霊は語る(梶天真・1938年(昭和13年))
『幽霊は語る』は、梶天真が編んだ幽霊譚と幽霊論の集成で、昭和十三年に文明社から出た。新聞・雑誌の記事や井上円了・柳田國男・高峰博らの所説、古典の文を出典を添えて引き、葬送の習俗や布哇の霊魂観から説く幽霊思想、幻覚や網膜による説明、乃木大将が見た我が子の幽霊などの実話を集める。三篇に分かれ、第二篇は男女の幽霊・怨霊・生霊・小児の見た幽霊・前知らせなど八項、第三篇は幽霊写真・化物屋敷・霊界通信を扱い、巻末を夕張と筑前の幽霊問答で結ぶ。