後をつけると墓場で消えた女
どんな伝承か
婦人が帰ったあとで見ると、脇に置いた十銭紙幣はいつの間にか木の葉に変わっていた。震える主人の話を女房は笑い、翌晩自分で受け取ったが、確かに紙幣だったものが、婦人が消えたあとは木の葉になっていた。冒険好きの市松は懐に短刀を忍ばせて後をつけた。婦人は平岡病院の角を曲がって野原へ出、長柄火葬場の裏から墓場へ入り、南の隅の墓標の前で煙のように消えた。そこには埋めて十日も経たない新しい墓があり、山本政子之墓と書いた墓標が立っていた。辺りをうかがっていると、どこからか赤ん坊の泣き声が聞こえてきた。
原典より
女が歸つてから見ると十銭紙幣がいつの間にか樹の葉に變つて居るので、主人も市松も顔を見合せて吃驚し、『あの婦人は怪しい。屹度幽霊だらう』と云つて主人は身を震はして恐怖の念に打たれた。—— 幽霊は語る(梶天真・1938年(昭和13年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
幽霊は語る(梶天真・1938年(昭和13年))
『幽霊は語る』は、梶天真が編んだ幽霊譚と幽霊論の集成で、昭和十三年に文明社から出た。新聞・雑誌の記事や井上円了・柳田國男・高峰博らの所説、古典の文を出典を添えて引き、葬送の習俗や布哇の霊魂観から説く幽霊思想、幻覚や網膜による説明、乃木大将が見た我が子の幽霊などの実話を集める。三篇に分かれ、第二篇は男女の幽霊・怨霊・生霊・小児の見た幽霊・前知らせなど八項、第三篇は幽霊写真・化物屋敷・霊界通信を扱い、巻末を夕張と筑前の幽霊問答で結ぶ。