墓の中で生きていた赤ん坊
どんな伝承か
泣き声が墓の土の底から漏れてくると確かめた市松は、助かる命なら救いたいと思ったが、深夜なので翌朝に回した。翌朝寺の和尚に一部始終を話して墓を掘らせてほしいと頼むと、和尚は、墓の女は昨夏に夫を亡くした身重の人で、この九月に亡くなり身寄りもないので墓地の隅に葬った、葬って二日目の夜から子の泣き声が聞こえていたと驚いた。届け出て役人の立ち会いで棺を開けると、母の死後に生まれたらしい赤ん坊が血にまみれて泣いていた。市松は、飴を買いに来たのはこの人に違いないと言った。和尚が赤ん坊を引き取ると、その夜から婦人は現れなくなった。子は健やかに育ち、ある人に養われているという。
原典より
その夜から幽靈婦人の飴買ひの姿は現はれなかつた。—— 幽霊は語る(梶天真・1938年(昭和13年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
幽霊は語る(梶天真・1938年(昭和13年))
『幽霊は語る』は、梶天真が編んだ幽霊譚と幽霊論の集成で、昭和十三年に文明社から出た。新聞・雑誌の記事や井上円了・柳田國男・高峰博らの所説、古典の文を出典を添えて引き、葬送の習俗や布哇の霊魂観から説く幽霊思想、幻覚や網膜による説明、乃木大将が見た我が子の幽霊などの実話を集める。三篇に分かれ、第二篇は男女の幽霊・怨霊・生霊・小児の見た幽霊・前知らせなど八項、第三篇は幽霊写真・化物屋敷・霊界通信を扱い、巻末を夕張と筑前の幽霊問答で結ぶ。