牛の御前の近くに残る化物屋敷
どんな伝承か
向島の牛の御前のそばに化物屋敷があると聞き、物好きな友人に誘われて見に行ったことがある。社の前を少し行った先で、覗いてみると百坪ほどの敷地に雑草が伸び放題に茂っていた。問題の家はその庭の真ん中に建っており、建坪は三十坪ほど、二階建ての小意気な造りである。それが十五、六年も空いたままなので、屋根も戸も破れて荒れ、屋根には雀が巣を作り、縁の下は野良犬のたまり場になっていた。そう思って眺めるせいか、いかにもそれらしく見える。何の化物屋敷かと尋ねると、家の由来に詳しい者が語り出した。建ったのは二十四、五年前で、家主は日本橋あたりの商家の隠居だったという。
原典より
ある時向島の牛の御前の近所に化物屋敷が有ると云ふので好奇な友人に連れられて見物に行つた事があつた。—— 幽霊は語る(梶天真・1938年(昭和13年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
幽霊は語る(梶天真・1938年(昭和13年))
『幽霊は語る』は、梶天真が編んだ幽霊譚と幽霊論の集成で、昭和十三年に文明社から出た。新聞・雑誌の記事や井上円了・柳田國男・高峰博らの所説、古典の文を出典を添えて引き、葬送の習俗や布哇の霊魂観から説く幽霊思想、幻覚や網膜による説明、乃木大将が見た我が子の幽霊などの実話を集める。三篇に分かれ、第二篇は男女の幽霊・怨霊・生霊・小児の見た幽霊・前知らせなど八項、第三篇は幽霊写真・化物屋敷・霊界通信を扱い、巻末を夕張と筑前の幽霊問答で結ぶ。