牛の御前の近くに立つ化物屋敷
どんな伝承か
向島の牛の御前の近くに化物屋敷があると聞き、語り手は友人に連れられて見に行った。二階建ての小粋な家だが十五、六年空いたままで、屋根も荒れ放題、庭は雑草が生い茂っていた。近所の物知りによれば、家が建ったのは二十四、五年前で、家主は日本橋あたりの商家の隠居だった。初めは隠居と六十ほどの老婆が住んでいたが、五、六年で隠居は姿を消し、代わって谷中あたりの寺の若僧が入った。品位のない狸爺のような老人である。三か月ほどして十七、八の美しい娘を連れ込むと、五か月目ごろから毎晩、娘の悲鳴や哀願する声が聞こえるようになった。
原典より
はじめの……はその隠居様と六十位のこれも又極品のいい、老婆とがゐた。—— 幽霊は語る(梶天真・1938年(昭和13年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
幽霊は語る(梶天真・1938年(昭和13年))
『幽霊は語る』は、梶天真が編んだ幽霊譚と幽霊論の集成で、昭和十三年に文明社から出た。新聞・雑誌の記事や井上円了・柳田國男・高峰博らの所説、古典の文を出典を添えて引き、葬送の習俗や布哇の霊魂観から説く幽霊思想、幻覚や網膜による説明、乃木大将が見た我が子の幽霊などの実話を集める。三篇に分かれ、第二篇は男女の幽霊・怨霊・生霊・小児の見た幽霊・前知らせなど八項、第三篇は幽霊写真・化物屋敷・霊界通信を扱い、巻末を夕張と筑前の幽霊問答で結ぶ。