物が動き障子が開く書家の家
どんな伝承か
大阪の上本町九丁目に、書家の村田梅石翁が住む家があった。女中が買ってきたコンニャクを置いておくと、目を離したすきに消えてしまい、書生の仕業かと言うと書生は知らないと怒った。皆で探すと、手も届かない高い所に五つきちんと積まれていた。しばらくして、台所の上がり口に置いた十個ほどの鶏卵が、誰かが動かすようにひょいひょいと動き出した。気味悪さに女中らは転居を迫ったが、翁は信じずに住み続けた。ある日、妾が翁に引っ越しを相談していると、隣の部屋から覗く者があるかのように障子が少しずつ開き、誰もいないのに左右に開き切ったので、さすがの翁も驚いたという。
原典より
後二三……して……十個ばかり臺所の上り……に置いた鶏卵が、人あつて動かす如くヒヨイ……と動きだした。—— 幽霊は語る(梶天真・1938年(昭和13年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
幽霊は語る(梶天真・1938年(昭和13年))
『幽霊は語る』は、梶天真が編んだ幽霊譚と幽霊論の集成で、昭和十三年に文明社から出た。新聞・雑誌の記事や井上円了・柳田國男・高峰博らの所説、古典の文を出典を添えて引き、葬送の習俗や布哇の霊魂観から説く幽霊思想、幻覚や網膜による説明、乃木大将が見た我が子の幽霊などの実話を集める。三篇に分かれ、第二篇は男女の幽霊・怨霊・生霊・小児の見た幽霊・前知らせなど八項、第三篇は幽霊写真・化物屋敷・霊界通信を扱い、巻末を夕張と筑前の幽霊問答で結ぶ。