眠谷のトチの老木と古そまの音
どんな伝承か
文化年間、三縄村松尾から眠谷を越えて祖谷へ向かう深い森の道には、回り二十メートル近いトチの老木があった。あまりの大木で運び出せず、山の木を伐ったときにも残されたという。人の通わぬこの辺りでは、すぐ先で斧の音が三つ四つ響き、木が倒れるような轟きが山にこだまするのに、行ってみると何も起きていない。藩の山なので勝手に伐る者もいないはずだった。音はいつも三十メートルほど前方で鳴り、四キロほど進む間に七、八度も繰り返された。土地ではこれを古そまと呼び、音がするだけで人に害はないとされている。
原典より
これを方言で「古そま」といい、ただ音ばかりで人間に害をするものではないとのことである。—— 阿波の怪談(横山春陽・郷土怪談・民俗・1958年(昭和33年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
阿波の怪談(横山春陽・郷土怪談・民俗・1958年(昭和33年))
『阿波の怪談』は、横山春陽が昭和三十三年に編み、徳島新聞出版部から発行した郷土の怪談集である。徳島県の各地と土佐との国境の山中に伝わる山女郎、淵や池の主、カッパ、亡霊、火の玉、タヌキやキツネ、大ジャの話を、平安朝の言い伝えから藩政期、明治・大正、昭和の出来事まで、編者が古老に聞き、書物から拾って題ごとに並べる。おわりにでカッパやヘビの話の多い地域や海の話の少なさについて記す。