地券発行に乗じた戸長の土地横領
どんな伝承か
真土村には代々松木長右衛門を名乗る旧家があり、当代は村の戸長を勤めていた。明治五年七月二十八日、政府は布告を発して土地を丈量し地価を定めるとともに地券を発行し、翌月には土地売買の禁を解いて所有権を明らかにすることとした。長右衛門はこの機会に、かねて村民から抵当として預かっていた四十九町歩の地所を自分のものにしようと図る。人びとを呼んで「銘々では手数だから皆私の名前にしておく、金ができ次第書き換えて返す」と言い、譲渡証書に調印させた。村民が金を調えて受け戻しに行くと期限切れだと言われ、初めて欺かれたことを知って地団駄を踏んだ。
原典より
皆仕方なく長右衛門の作製してあつた地所讓渡證書と云ふものに調印してしまつた。—— 奇談全集 現代篇(田中貢太郎・奇談全集) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
奇談全集 現代篇(田中貢太郎・奇談全集)
『奇談全集 現代篇』は、田中貢太郎が幕末から大正にかけての事件や奇談を読み物に仕立てた作品集である。明治十一年に相模の真土村で起きた松木騒動、大正十五年に千葉の久賀村一帯で起きた鬼熊の事件、香取郡の連続殺人、伊賀上野の破獄、京都の天誅などを、記録や関係者の話をもとに描き、松木騒動には筆者が大正六年に現地を訪ねた補遺を付す。播磨屋橋遺聞のように、筆者自身が創作と断る話も含む。