娘に顔を見られ茶屋の一家を斬った若侍
どんな伝承か
その晩、三人は知り合いの料理屋で夜更けまで遊び、酔って浮かれるふりをして目当ての引手茶屋へ向かうと、表の雨戸をこじ開けて押し入った。寝入りばなの亭主の前に白刃が突きつけられ、命さえあれば金はまたもうけられると考えた亭主は、枕元の硯箱にある財布を差し出した。三人は表にも裏にも仲間が見張っていると脅して引き上げかけたが、そのとき夜着の袖からのぞいていた八つの娘が、今のはいつも店に酒を飲みに来る陣屋の旦那さんだと父親に言った。その声を耳にした三人は顔を見られたと知って引き返し、茶屋の一家を斬り殺してしまった。
原典より
女の子は手柄さうに起きあがって、夜着の袖に手をかけた。—— 奇談全集 現代篇(田中貢太郎・奇談全集) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
奇談全集 現代篇(田中貢太郎・奇談全集)
『奇談全集 現代篇』は、田中貢太郎が幕末から大正にかけての事件や奇談を読み物に仕立てた作品集である。明治十一年に相模の真土村で起きた松木騒動、大正十五年に千葉の久賀村一帯で起きた鬼熊の事件、香取郡の連続殺人、伊賀上野の破獄、京都の天誅などを、記録や関係者の話をもとに描き、松木騒動には筆者が大正六年に現地を訪ねた補遺を付す。播磨屋橋遺聞のように、筆者自身が創作と断る話も含む。