江戸から割元名主に届いた一通の手紙
どんな伝承か
幕末のころ、下総の干潟には上州安中の板倉伊予守の陣屋があった。その干潟の割元名主服部治一郎のもとへ、ある日、江戸から飛脚に託した一通の手紙が届いた。治一郎は自分の部屋で帳面を調べながら算盤をはじいていたが、差出人の名を見てもとくに気を引かれず、面倒くさそうに封を切った。ところが粗い字で走り書きされた手紙を読み進めるうちに引き込まれ、思わず声をもらした。もう一度はじめから読み返すと手を打って下女を呼び、珍しい話があるから奥を呼んでくれと言いつけた。筆者はこれを俳人服部耕石翁の家に伝わる話として記している。
原典より
其の干潟の割元名主の服部治一郎の許へ某日江戸から飛脚に託して つて た一封の手簡が届いた。—— 奇談全集 現代篇(田中貢太郎・奇談全集) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
奇談全集 現代篇(田中貢太郎・奇談全集)
『奇談全集 現代篇』は、田中貢太郎が幕末から大正にかけての事件や奇談を読み物に仕立てた作品集である。明治十一年に相模の真土村で起きた松木騒動、大正十五年に千葉の久賀村一帯で起きた鬼熊の事件、香取郡の連続殺人、伊賀上野の破獄、京都の天誅などを、記録や関係者の話をもとに描き、松木騒動には筆者が大正六年に現地を訪ねた補遺を付す。播磨屋橋遺聞のように、筆者自身が創作と断る話も含む。