執行猶予で出獄し五木田家で祝杯
どんな伝承か
熊は庖丁を手拭にくるんで女の家へ押しかけ、寅松と切れるかと迫っていたところへ、家人の知らせで駐在所から巡査と刑事が駆けつけた。熊は現行犯として連行され、八日市場の刑務所に入れられる。すると五木田をはじめ二三の者が党派の力で動き、懲役三月・執行猶予三年の特典に浴させた。八月十七日に出獄すると十九日には五木田の家で祝杯が挙げられ、菅澤重雄一派の政友会への面当ての意味もこもっていた。酒の席でも熊は女のことばかり考えていた。女はその日多古署へ召喚されて風紀上の取調べを受けており、夜が明けた二十日の零時ごろ、熊はそっと女の家へ近づいた。
原典より
熊は裁判所に對する用意をしなくてはならなかった。—— 奇談全集 現代篇(田中貢太郎・奇談全集) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
奇談全集 現代篇(田中貢太郎・奇談全集)
『奇談全集 現代篇』は、田中貢太郎が幕末から大正にかけての事件や奇談を読み物に仕立てた作品集である。明治十一年に相模の真土村で起きた松木騒動、大正十五年に千葉の久賀村一帯で起きた鬼熊の事件、香取郡の連続殺人、伊賀上野の破獄、京都の天誅などを、記録や関係者の話をもとに描き、松木騒動には筆者が大正六年に現地を訪ねた補遺を付す。播磨屋橋遺聞のように、筆者自身が創作と断る話も含む。