積善寺の不動像を奪った祟り
どんな伝承か
寒風に木の葉の散る夕方、斗賀野の方から山坂を越えて来た山内監物の一行が、戸波の積善寺に立ち寄って一服した。監物は丘の裾の薬師堂に目をとめ、脇立の不動が運慶か湛慶の作らしいと住職に聞くと、「門口が淋しいから、これを据えるといいだろう」と言って臣の甚六に木像を持たせた。住職は念仏を唱えるほかなかった。監物が邸へ帰って門脇の台に据えると、雷鳴、正体の知れぬ地鳴り、旋風、山崩れと怪異が続き、ついには炎を吐く一丈ほどの怪物が現れて裏山が山火事になった。監物は「不動様を戸波へ戻しに往け」と叫び、木像はその夜のうちに積善寺の薬師堂へ返され、山火事も僅かな焼けかたで消えた。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本の怪談(二)(田中貢太郎・日本の怪談シリーズ)
『日本の怪談(二)』は、田中貢太郎が著した怪談・奇談の短編集である。著者の郷里である土佐の高岡郡や長岡郡の山村の話を多く含み、越中の放生津や立山、利根川の河口、館林の城下、江戸の碑文谷などを舞台に、蟹や蛇の怪、鮭の祟り、山姑、亡者宿、切支丹の処刑にまつわる怪異を物語の形で書く。「蟹の怪」から「鶏物語」まで二十八篇を収め、友人から聞いた話として語る篇もある。