台場の旗奪の夜の怪火
どんな伝承か
著者の村は土佐の海岸にある半農半漁の村で、聖神の森の笑い婆、馬の首の走る大井の小路、地曳網の網代に燃える陰火など怪異の話が絶えなかった。ある夏の薄月の射した晩、夜学会の仲間の少年たちと台場の沖という処へ旗奪に往った。台場は藩政時代に外夷へ備えて築いた砲台で、小山のような土塁の上には大きな松が生えている。その南側の草原で旗奪を数回やって休んでいると、誰かが小さな声で「あれが見えるか」と言った。指す方を見ると、八番のあれの陸側になった松の梢に月ほどの大きさの青白いものが浮かび、見ているうちに蛍火のようにばらばらになって落ちた。また火の団が現れては散った。著者は頭がじゃんとして体が痺れ、傍にいた寅という少年は泣いた。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本の怪談(二)(田中貢太郎・日本の怪談シリーズ)
『日本の怪談(二)』は、田中貢太郎が著した怪談・奇談の短編集である。著者の郷里である土佐の高岡郡や長岡郡の山村の話を多く含み、越中の放生津や立山、利根川の河口、館林の城下、江戸の碑文谷などを舞台に、蟹や蛇の怪、鮭の祟り、山姑、亡者宿、切支丹の処刑にまつわる怪異を物語の形で書く。「蟹の怪」から「鶏物語」まで二十八篇を収め、友人から聞いた話として語る篇もある。