九条の庵から消えた入留満
どんな伝承か
慶長十七年三月、京の鴨川の磧で切支丹の取り締まりが行われていた折、一人の僧が奉行大久保忠隣のもとへ訴え出た。元南蛮寺の入留満が九条の片隅に隠れ、枯木に花を咲かせ、客を待たせて天の川へ魚を捕りに行くと言っては魚籠を腰に縁先から虚空へ消える、という。忠隣の家臣吉見太郎左衛門が捕卒を連れて天神裏の庵へ踏み込むと、小柄な男は、明日には忠隣も伊賀守もそなたも地獄の苦しみを受けると告げ、十字を切って煙のように消え失せた。
原典より
小柄な男の姿は煙のように消えてしまった。—— 日本の怪談(二)(田中貢太郎・日本の怪談シリーズ) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本の怪談(二)(田中貢太郎・日本の怪談シリーズ)
『日本の怪談(二)』は、田中貢太郎が書いた怪談・奇談の短編集である。著者が「私の村」と呼ぶ土佐の海村の迷信を語る「鷲」のほか、高岡郡や長岡郡、野根山など土佐の話を多く含み、越中の放生津や立山、銚子の利根川口、京の寺町、摂津の味泥、館林の城下、江戸の碑文谷などを舞台に、蟹や蛇の怪、鮭の祟り、山姑、亡者宿、切支丹の妖術を物語の形で書く。「蟹の怪」から「鶏物語」まで二十八篇を収め、友人や土地の人から聞いた話として語る篇もある。