狐を憑けて祈禱を請けた千手院の僧
どんな伝承か
『霊獣雑記』が伝える幻術の一例。江戸の千駄ヶ谷にあった千手院の使僧は、まず狙いを定めた相手にひそかに狐を憑かせておき、仲間の比丘尼に千手院の祈禱はよく効くと言い触れさせた。頼まれて祈禱に出向き、自分で憑けた狐を落としてみせるという段取りである。ところがある貴家の主人に狐を憑けようとしたところ、狐は主人ではなく近習に憑いてしまい、口走った言葉から千手院の差し金だと知れた。企みは露見し、僧は追放されたという。同じころ日蓮宗の僧にも同様の手口の者があり、召し捕られて流罪になった例があると記す。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
井上円了 妖怪学講義(井上円了 著・平野威馬雄 編)
『井上円了 妖怪学講義』は、明治期に哲学館で講じられた井上円了の『妖怪学講義』から要所を選び、平野威馬雄が現代の文章に改めて編んだ抄録である。狐憑きや化物屋敷、怪火、幽霊、コックリなどを題材に、円了が古書から抜き出した記事、各地から寄せられた報告、円了自身の現地での調べを収める。原著の八部門のうち理学・心理学・宗教学・雑の四部門を章に立て、序で研究の経緯と分類を、結びで編者の見方を述べる。