目が動いて笑った小式部の人形
どんな伝承か
古道具屋の大井金五郎は、三河島蓮田の同業者小林文平のもとで古い人形を二十五両で競り落とし、金町の家に持ち帰った。箱には勝山髷を結った二十六、七歳ほどの女の頭が入っていたが、女房に見せた後で金五郎が改めて眺めると、人形の目が動いて寂しげに笑った。以来金五郎は正気を失い昼夜暴れた。女房は人に頼んで荒川へ流させたが、箱は重りでも付いたように同じ所に浮いたまま動かなかった。そこで町屋の火葬場前にある地蔵院に封じてもらうと、住職森徹信が来歴を調べた。人形は文化年間、吉原橋本楼の小式部太夫が、執心する三人の武士へ贈るため自分に似せて作らせた三体の一つで、完成の日に太夫は息を引き取ったと伝わる。
原典より
* 狐の嫁入り (77)* 狐の尻尾 (79)* 狐火事 (80)* 画家の見た怪異 (83)* お化の面 (85)* 朝倉一五〇 (87)* 三原山紀行 (89)* 俳優の眼に映る生霊…—— 日本怪談実話(田中貢太郎・河出文庫・1938年(昭和13年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本怪談実話(田中貢太郎・河出文庫・1938年(昭和13年))
『日本怪談実話』は、田中貢太郎が昭和十三年に著した実話怪談集を河出文庫に収めたものである。明治以降に著者が聞き集めた怪異を報告調の短文で綴り、戦地の霊験や戦死者の知らせ、狐狸・天狗・海坊主、トンネルや自動車に現れる女、幽霊写真、狐狗狸などを扱う。元本は改造社刊の『新怪談集(実話篇)』で、冕言に始まって二百を超える小話を並べ、巻末に川奈まり子の解説を付す。