衝突で溺死した乗組員の霊の憑依と報復
どんな伝承か
明治三十六年四月二十四日、高知県安芸郡田野村の青年有沢繁次は、自分の百石積みの荷船住吉丸に肥料の生石灰を積んで浦戸港を出たまま行方を絶った。七十日ほどして諸木村の沖で御畳瀬の漁師の網に人の首がかかり、歯並びから繁次と知れた。その晩、兵庫にいた母キチは、御畳瀬に隠れていると告げる繁次の夢を見ていた。まもなく御畳瀬の漁夫定吉が、沖で見た腐乱死体に苫をかけて帰ると震え出し、住吉丸の雇い人銀次だと名乗って、同じ村の杉本亀吉の船にぶつけられ見殺しにされたと叫んだ。告訴は不起訴に終わったが、銀次の霊は再び定吉に憑いて自ら仇を討つと言い、やがて由蔵は材木に打たれて即死し、亀吉も狂って悶死したという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本怪談実話(田中貢太郎・河出文庫・1938年(昭和13年))
『日本怪談実話』は、田中貢太郎が昭和十三年に著した実話怪談集を河出文庫に収めたものである。明治以降に著者が聞き集めた怪異を報告調の短文で綴り、戦地の霊験や戦死者の知らせ、狐狸・天狗・海坊主、トンネルや自動車に現れる女、幽霊写真、狐狗狸などを扱う。元本は改造社刊の『新怪談集(実話篇)』で、冕言に始まって二百を超える小話を並べ、巻末に川奈まり子の解説を付す。