亡妻の墓に挿した竹杖が芽吹く
どんな伝承か
高知県吾川郡御畳瀬村は、浦戸港の咽喉部に屛風を立てたような小山を背にした小さな漁村である。その村の漁師山本音吉は、大正五年に女房の利栄に死なれた。七人の子はいずれも小さかった。やがて誰言うとなく、音吉の家へ夜な夜な死んだ女房が来て下の五人の子の頭を撫で、撫でられるたびに子が泣くと噂された。近くの北川亀という気の強い女が留守居をして眠らずにいると、二時頃、庖廚の天井窓から赤いぼうとした物が降りて子供の周りを廻り、五人が順に呻いた。亀が「子供が病気になるから出て来てもろうては困る」と告げると赤い物は消え、以後現れなかった。同じ頃、墓の竹杖が芽を吹いて評判になった。
原典より
* 掠奪した短刀 (260)* 桐原事件の一挿話 (262)* 位牌が動く (269)* 亀の子を握ったまま (270)* お墓の掃除 (272)* 位牌と鼠 (273)* じゃれつく犬 (2…—— 日本怪談実話(田中貢太郎・河出文庫・1938年(昭和13年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本怪談実話(田中貢太郎・河出文庫・1938年(昭和13年))
『日本怪談実話』は、田中貢太郎が昭和十三年に著した実話怪談集を河出文庫に収めたものである。明治以降に著者が聞き集めた怪異を報告調の短文で綴り、戦地の霊験や戦死者の知らせ、狐狸・天狗・海坊主、トンネルや自動車に現れる女、幽霊写真、狐狗狸などを扱う。元本は改造社刊の『新怪談集(実話篇)』で、冕言に始まって二百を超える小話を並べ、巻末に川奈まり子の解説を付す。