田浦を出た汽車に現れる帽子のない水兵
どんな伝承か
横須賀へ向かう汽車がまだ電化されていなかったころのことである。夕方六時四十分ごろ、汽車が田浦を出たところで、帽子をかぶらない青ざめた顔の水兵が一人、影のようにふらふらと二等車の方へ入っていった。それに気づいた乗客は、数日前にもこの辺りで同じ水兵を見かけていた。ちょうど二等車から出てきた列車ボーイにあの水兵は何者かと尋ねると、ボーイは目を丸くして、帽子のない水兵なら、また出たのかとつぶやいた。後で聞けば、三人連れで田浦方面へ遊びに出た水兵の一人が、帰りに帽子をなくし、その途中で轢かれて死んだのだという。
原典より
* 狸の信号提灯 (338)* 妖女の舞踏する踏切 (340)* 怪火に浮ぶ白衣の男 (341)* 隧道内の怪火 (341)* 鉄道線路を走る少年 (342)* 旅客の気絶する隧道 (344)*…—— 日本怪談実話(田中貢太郎・河出文庫・1938年(昭和13年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本怪談実話(田中貢太郎・河出文庫・1938年(昭和13年))
『日本怪談実話』は、田中貢太郎が昭和十三年に著した実話怪談集を河出文庫に収めたものである。明治以降に著者が聞き集めた怪異を報告調の短文で綴り、戦地の霊験や戦死者の知らせ、狐狸・天狗・海坊主、トンネルや自動車に現れる女、幽霊写真、狐狗狸などを扱う。元本は改造社刊の『新怪談集(実話篇)』で、冕言に始まって二百を超える小話を並べ、巻末に川奈まり子の解説を付す。