嵐の浦賀に打ち上げられた大烏賊
どんな伝承か
昭和五年四月二日、神奈川県横須賀地方は未明から激しい暴風に見舞われ、海上の風速は二十メートルを超えた。博覧会の見物客を乗せて東京を出た汽船橘丸は横須賀に着いても客を降ろせず、浦賀港へ回ってやっと上陸させるほどの荒れようだった。その嵐のさなか、浦賀大津の海岸に得体の知れないものが打ち上げられ、近くの人が確かめると、足の長さ一間半、全長二間半、胴の幅三尺もある大烏賊の死骸だった。さらに七日の夕方には、金沢町の漁師久保寺宗吉が横須賀沖で長さ一丈五尺の大烏賊を生け捕りにして評判になった。筆者は江戸時代に江の島で捕れた九尺の烏賊の倍の大きさだと記している。
原典より
この烈風の最中、浦賀大津九八三地先の海岸に、異様な怪物が打ち上げられているので、附近の者が驚いて、よくよく見ると、それは、足の長さ一間半、全長二間半、胴幅三尺という、世にも珍しい大烏賊の死んだものであった。(時事新報)—— 日本怪奇集成-明治大正昭和篇(富岡直方 編著) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本怪奇集成-明治大正昭和篇(富岡直方 編著)
『日本怪奇集成-明治大正昭和篇』は、富岡直方が編んだ怪奇実話集である。明治元年から昭和七年までに各地で起きた幽霊や狐狸の怪、畸形や奇病、天変や奇瑞、世相の珍事を、当時の新聞・雑誌の記事と筆者自身の聞き書きから集めている。明治・大正・昭和の三篇に分け、話ごとに年月を掲げて通し番号を振り、新聞記事を引いたうえで紙名を末尾に添える形を基本とする。