借家の障子に三度映った白い女
どんな伝承か
大正十四年、大軌沿線の小坂にある樟蔭女学校前の広場に面して、長い塀を巡らした立派な二階家があり、数年空き家だったのを前年十一月に武井裕が借りて住んでいた。三月二十二日の夜、夫婦は二階の八畳で休んだが、午前二時ごろ武井が目を覚ますと、廊下側の障子にうつむき加減の白い女の姿がぼんやり映り、部屋へ入りかけては薄れて消えた。一時間ほどしてまた現れ、三度目も同じだった。気味が悪くなって妻を起こすと、妻は目を閉じたまま、お経をあげて供養するからもう出ないでほしいと言った。妻は以前から二、三度その姿を見ており、四十ほどの女が身悶えして泣く姿を見たこともあったという。
原典より
* 魔の電柱 (429)* 自殺のできぬ青年 (430)* 能代川の堤 (431)* 赤い牛 (432)* 蛸にすいつかれた男 (433)* 簪につけた短冊 (434)* 埴輪挿話 (435)…—— 日本怪談実話(田中貢太郎・河出文庫・1938年(昭和13年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本怪談実話(田中貢太郎・河出文庫・1938年(昭和13年))
『日本怪談実話』は、田中貢太郎が昭和十三年に著した実話怪談集を河出文庫に収めたものである。明治以降に著者が聞き集めた怪異を報告調の短文で綴り、戦地の霊験や戦死者の知らせ、狐狸・天狗・海坊主、トンネルや自動車に現れる女、幽霊写真、狐狗狸などを扱う。元本は改造社刊の『新怪談集(実話篇)』で、冕言に始まって二百を超える小話を並べ、巻末に川奈まり子の解説を付す。