鉄の肺から魂が旅した山の向こう
どんな伝承か
名古屋の酒井和子さんは一九六四年、顔や手足の麻痺が呼吸筋にまで及び、鉄の肺に入れられた。苦しさに叫んだのち、体が地面に引きこまれ、心だけが昇ってベッドの自分と家族を上から見た。家へ帰ろうとすると玄関は人であふれて入れず、声をかけても誰も振り向かない。屋根から茶筒のような筒に入って空を飛び、遊ぶ子供たちに家を尋ねたが、もう自分の名さえ思い出せなかった。真っ白な空間を進み、人形の指す暗いトンネルを抜けると、光の中に山々と川と花の草原が広がっていた。山の向こうに家があると思って川沿いに進むと、背後から呼ばれて目が覚めた。父は呼んでいないと言い、彼女は神の声だったと信じている。
原典より
そこから茶筒のような丸い筒に入って空を飛んでいきました。—— 臨死体験(立花隆)(立花隆・臨死体験・ノンフィクション) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
臨死体験(立花隆)(立花隆・臨死体験・ノンフィクション)
『臨死体験(立花隆)』は、立花隆が著したノンフィクションである。一九九一年三月放送のNHKスペシャルのための取材を出発点に、日本と欧米の体験者の証言、キュブラー・ロスやムーディら研究者への聞き取り、「文藝春秋」連載中に寄せられた体験談を収める。体外離脱、光の体験、文化による体験の差、感覚遮断や脳の仕組みを章ごとに論じ、末尾で現実体験説と脳内現象説を比べたうえで、著者は基本的に脳内現象説に立つと述べる。