淀みなく一字も消さぬ自動書記
どんな伝承か
神憑りで筆を執る出口直を間近に見た今井梅軒は、記者らしく冷静に観察しようとしたが、神々しさに圧されて顔を上げにくかったと記している。墨の染みの残る白衣の袖から出た右手は、先のすり減った筆を握って滑らかに動き続け、書き損じを消すことも言葉を書き足すこともなかった。時おり筆を置いて合掌し頭を下げると、また機械のように書き出し、十数枚の紙が机に積まれていった。今井は、人の口述ではこうは書けないと考えたという。
原典より
一字も消すこともなければ挿入するといふこともないのです。—— 日本神異見聞伝(笠井鎮夫・1974年(昭和49年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本神異見聞伝(笠井鎮夫・1974年(昭和49年))
『日本神異見聞伝』は、笠井鎮夫が昭和四十九年に著した霊異の見聞記である。第一篇では、大正期に大本で鎮魂帰神を受けた著者が、霊媒による死者の招霊や狐霊・竜神の託宣、霊石の発掘などを研究会での語りの口調で伝える。第二篇では、慶応三年のええじゃないかのころ尾張・遠江・駿河・美濃・丹後などで起きたお札降りを、旧家の古文書や郷土史家の便り、著者の現地調査から記録している。