配所で白衣に着替え神上りす
どんな伝承か
島に流されて七年、罪は許されぬまま嘉永二年の春を迎えた。ある日、門人たちが訪ねて講話を聴き、信者の頭である笹本久右衛門だけが残ったとき、正鉄は持病が激しくなったのでいつ神上りするか分からないと胸中を洩らした。久右衛門はひそかに同門へ伝え、辞世を請うたが、正鉄は、自分が平生人々に書き与えたものはすべて辞世だと答えた。それでも重ねて願われると筆を取り、世は変る浮世静に官軍の、と詠んで神代のしるしを結んだ。ある夜半、独り起き出して自ら湯を沸かし、沐浴して白衣に着替え、いつものように修祓を終えて祝詞を奏上している最中に門人たちが駆けつけた。父の霊前を朝夕拝せよと遺し、日没時に息を引き取った。
原典より
正鉄在島すでに七年、罪はなお許されぬままに嘉永二年の春を迎えた。—— 近代日本霊異実録(笠井鎮夫・霊異・神憑り実録・1966年(昭和41年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
近代日本霊異実録(笠井鎮夫・霊異・神憑り実録・1966年(昭和41年))
『近代日本霊異実録』は、笠井鎮夫が著して昭和四十一年に昭森社から初版を出した、幕末から近代の神憑りと霊異の記録で、ここに収めるのは昭和四十八年に山雅房から出た複刻版である。金光教・黒住教・天理教・大本の教祖の神憑り、井上正鉄の求道、宮地常磐・堅磐父子や河野至道の神仙譚、天狗の弟子寅吉の話、長南年恵の奇跡などを、手記・写本・旧著を引いて語る。全十二録からなり、第一録には金光教に入信した著者の父の手記を収め、巻末にあとがきと著者略歴を置く。