牛小屋に埋めた猿の手と牛疫除け
どんな伝承か
南方熊楠は「猴に関する伝説」のなかで、熊野では牛を神の物として藤白王子より南では放し飼いにし、春に猿まわしが訪れると猿に神官の装いをさせて牛舎の前で祈禱をまねさせたと記した。そのうえで、和深村のあたりでは今も猿の手を牛小屋に埋めて牛の疫病を避けている、と書き添えている。和深村は現在の串本町和深にあたる。猿を舞わせる祈禱そのものはすでに廃れ、代わりに猿の手を埋める呪いだけが残ったということかもしれない、と著者は読んでいる。猿に牛馬を守る力があるという古い考えの名残である。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
村の奇譚 ― 里の遺風(筒井功・民俗・地誌・2018年(平成30年))
『村の奇譚 ― 里の遺風』は、民俗研究者の筒井功が平成三十年に著した民俗探訪記である。修験の里の石室、石風呂と焼き石湯、山中の贋金づくり、箕作りの集団や天幕部落、岩窟に暮らした非定住民、猿と猟師、氷室と風穴、産屋、墓制、安倍晴明の墓、狐憑きと犬神など、各地の村に残る習俗と伝承を、聞き取りと文献の両面からたどる。全十三章で、昭和三十年前後の高知市での見聞から説き起こし、「おわりに」では別の出版社で刊行が見送られた経緯を記す。