岩の上で髪を梳いたお浪の姿
どんな伝承か
大昔、樫野の庄屋に善右門という律義者がいて、一人息子の善兵衛は気立ての優しい男であった。善兵衛は近所の貧しい娘お浪と人目を忍ぶ仲になったが、父は賤しい身分の者は娶れぬと言い渡し、対岸の高が原の由緒ある家から嫁を迎えた。お浪の姿は忽然と島から消え、海金剛の磯辺の岩の上に愛用の櫛が一本残されていた。ある日、善兵衛が隣の良吉と海金剛の磯へ釣りに出ると、切り立った三角の大岩の天辺に一人の女が腰かけ、丈なす黒髪を梳いていた。振り返ってにたりと笑ったその顔は、まさしくお浪であった。善兵衛が叫んでも答えず、二人は逃げ帰った。大勢で見に行った時にはもう人影はなく、以来樫野の人はこの島を髪とき島と呼ぶようになったという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本伝説大系 第9巻(日本伝説大系編集委員会・日本伝説大系(みずうみ書房))
『日本伝説大系 第9巻』は、日本伝説大系編集委員会が編んだ伝説資料集の一巻である。三重・奈良・和歌山・大阪の各地に伝わる伝説を、三輪山・安珍清姫・弘法清水・油掛け地蔵など百余りの話型ごとに集める。各話型は例話を冒頭に据えて『日本伝説名彙』などとの対応を示し、〔類話〕に伝承地と出典つきの梗概を並べ、〔文献〕に近世以前の史料の原文を添えて補う構成をとる。