麻布の寺の墓所で語らう二人の幽霊
どんな伝承か
鈴木桃野の随筆『反古のうらがき』巻一が記す話である。文化年間、麻布にある寺の墓所に、夜十二時を過ぎると二人の幽霊が現れ、毎晩のように語り合っていたという。片方は二十四、五歳ほどの痩せた男、もう片方は六十歳ばかりの老女で、その様子は親子というより夫婦に見えた。調べると無縁の合葬墓があった。二十四、五で亡くなった商人と、夫の死後も洗濯婆をして生き延び、六十ほどで亡くなったその妻とを一緒に葬った墓だったという。著者は、幽霊は死んだ時の年のまま在り続け、しかも語りたがるものだと読んでいる。
原典より
文化年間のことなのであるが、麻布某の寺の墓所に、子の刻(夜の十二時)すぎになると、二人の幽霊があらわれて、夜な夜な物語をするという。—— 日本の幽霊たち ― 怨念の系譜(阿部正路) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本の幽霊たち ― 怨念の系譜(阿部正路)
『日本の幽霊たち――怨念の系譜』は、阿部正路が書きおろした日本文学の幽霊論で、刊行は日貿出版社が手がけた。『竹取物語』『源氏物語』『平家物語』などの物語、『日本霊異記』から『遠野物語』『聴耳草紙』に至る説話、能と歌舞伎、さらに三遊亭円朝・泉鏡花・森鴎外・小泉八雲らの近代の作品に現れる幽霊をたどり、怨念の系譜として読み解く。第一章で幽霊の時・季節・姿・場・目的を論じ、終章で稲生屋敷の物怪や百鬼夜行など幽霊の周辺に及ぶ。