丙午の大火を恐れた京都の寝ずの番
どんな伝承か
妖怪博士・井上円了は、明治三十九年の春に大和地方を一巡した。この年は丙午に当たり、丙は十干の陽火、午も十二支の火の気の盛んな方角で、干支ともに火の気の最も強いものが重なるため、その年は必ず大火事があるであろうとの評判が京都中に広まった。もともと火事の少ない京都では人々の恐れも甚だしく、市中は大いに騒ぎ、各戸みな寝ずの番をする有様であった。京都の有志者が円了の巡回先を訪ね、大和からの帰路に立ち寄って市民に「丙午は恐るるに及ばぬ」という演説をしてくれと依頼したという。三都は文明が高いはずが迷信が強い、その一例とされる。
原典より
ゆえに年が丙午で大火事があると聞いて市中大いに騒ぎ、各戸みな寝ずの番をする有様である。—— 迷信の諸相・宗教の真相(井上円了・1916年(大正5年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
迷信の諸相・宗教の真相(井上円了・1916年(大正5年))
『迷信の諸相・宗教の真相』は、井上円了が大正五年に刊行した『迷信と宗教』を、新しい題を付け現代の表記に改めて翻刻した本である。琉球・伊豆七島・壱岐対馬から北海道まで、著者が各地を巡回して見聞した犬神・人狐・河童・狐憑きなどの迷信と、怪火・天狗・幽霊・鬼門・卜筮・家相・禁厭など全国共通の迷信を挙げる。迷信の利害と原因を論じたのち宗教の真相を説き、余論に妖怪学の短編、附録に幽霊鬼神と霊魂不滅をめぐる論を収める。