田の中で汽車を止めた駅の電光の幻
どんな伝承か
近江の草津と大津のあいだに、数年前、石山駅が新しく設けられた。それから間もなく、夜更けの汽車がまだ駅に着かないうちに、電灯がいくつも並んでいるのを見て駅に着いたと思い込み、停車してみると、そこは湖のほとりの田んぼの中だったという。当時は狐狸の仕業に違いないと噂されたが、著者は、湖の上に濃い霧がかかり、数町離れた停車場の電灯の光が映ったための誤怪だろうと考えている。
原典より
その当時の風説には狐狸の所為に相違ないとの評なりしも、余はやはり湖面の方に濃霧があって、数丁隔たりたる停車場の電光が返射せる誤怪ならん思うている。—— 迷信の諸相・宗教の真相(井上円了・1916年(大正5年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
迷信の諸相・宗教の真相(井上円了・1916年(大正5年))
『迷信の諸相・宗教の真相』は、井上円了が大正五年に刊行した『迷信と宗教』を、新しい題を付け現代の表記に改めて翻刻した本である。琉球・伊豆七島・壱岐対馬から北海道まで、著者が各地を巡回して見聞した犬神・人狐・河童・狐憑きなどの迷信と、怪火・天狗・幽霊・鬼門・卜筮・家相・禁厭など全国共通の迷信を挙げる。迷信の利害と原因を論じたのち宗教の真相を説き、余論に妖怪学の短編、附録に幽霊鬼神と霊魂不滅をめぐる論を収める。