八幡山の鬼を討った牛善平
どんな伝承か
大槌浜の字吉里吉里に、名の響いた善平という大長者がいた。もとはひどく貧乏で、痩牛二疋を引いて遠野の横田の町へ魚を売りに通っていた。ある時いつものように魚荷を積んで越えて来ると、町近くの八幡山から鬼が出て魚をよこせと牛の頭を押さえて放さない。鰯を一俵ずつ下してやってもみな食い尽くし、なお足りぬと牛の睾丸までもいで食った。善平は本宿の利右衛門の家に怪我牛を預け、翌日仇を討ちに八幡山の鬼の家を探し当てて厩桁に隠れた。鬼が餅を食って居眠りする隙に唐櫃の蓋へ外から鍵をかけ、切刃で穴を開けて煮え湯を注ぎ込み、鬼を殺した。桁の栗俵を浜へ運び、傷の癒えた牛で四十八駄を売ったのが長者になる土台となった。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
佐々木喜善全集 1(佐々木喜善・佐々木喜善全集・1986年(昭和61年))
『佐々木喜善全集 1』は、佐々木喜善の著作を遠野市立博物館が編集・発行し、昭和六十一年に刊行した全集の第一巻である。岩手県の遠野・江刺・紫波・岩手などで聞き集めたザシキワラシの話、昔話、伝説を、村の古老や知友からの聞き書きと手紙による報告をもとに収める。「奥州のザシキワラシの話」「江刺郡昔話」「紫波郡昔話」「東奥異聞」「老媼夜譚」「聴耳草紙」に小篇を加えて並べ、巻末に遠野市教育長の跋と奥付を置く。