淵の主となった下婢お仙
どんな伝承か
小友村に上鮎買という家があった。この家の全盛の頃、お仙という下婢がいて、毎日裏の山へ行っては半時ほどで帰るのが癖であったが、ついにそのまま帰って来なくなった。乳離れしない幼児がいたので、夫が子を背負って山へ登り、お仙、童に乳をくれと呼ぶと、常の姿のまま出て来て子に乳を与えた。四、五日続いた最後の日には胸に蛇の鱗が生え、手真似で二度と来るなと示し、形相恐ろしく池の中へ入ってしまった。七日ほど経って大雨が降り洪水が出たとき、お仙は立派な蛇体となって主家の前を流れ下り、小友川の水口の淵に入ると元の姿で水上に立ち上がり、やがて淵の底に隠れて主となった。そこをお仙ヶ淵といい、乳を与えた山を蛇洞と呼ぶ。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
佐々木喜善全集 1(佐々木喜善・佐々木喜善全集・1986年(昭和61年))
『佐々木喜善全集 1』は、佐々木喜善の著作を遠野市立博物館が編集・発行し、昭和六十一年に刊行した全集の第一巻である。岩手県の遠野・江刺・紫波・岩手などで聞き集めたザシキワラシの話、昔話、伝説を、村の古老や知友からの聞き書きと手紙による報告をもとに収める。「奥州のザシキワラシの話」「江刺郡昔話」「紫波郡昔話」「東奥異聞」「老媼夜譚」「聴耳草紙」に小篇を加えて並べ、巻末に遠野市教育長の跋と奥付を置く。