三軒長屋を飛び交う鈴と大黒像
どんな伝承か
明治二十六年、青森県東津軽郡浅虫の山手にある三軒の相借家で、物が飛ぶ怪異が起こった。二階の小笠原方でまず神棚の鈴が落ち、続いて蠟燭立が音もなく飛んで大きな響きとともに落ちた。同じことが階下の江口方、奥の海老名方にも起こり、一日に十五、六回も物が飛び交った。東奥日報の記者と駐在巡査が実地を見た翌朝には、仏壇の大黒像が次の間へ飛び、水を汲んで供えた茶碗が一滴もこぼさずに隣家へ移った。午後は一時間に五回にも及び、人々は恐れて大黒や恵比寿を祀ろうかと話し合った。三軒が大掃除をすると、床下から猫四匹が見つかったという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
妖怪の民俗学――日本の見えない空間(宮田登・宮田登・民俗学・1985年(昭和60年))
『妖怪の民俗学――日本の見えない空間』は、宮田登が一九八五年(昭和六十年)に著した、妖怪の現れる場所を論じた民俗学の書である。柳田国男と井上円了の妖怪論、幽霊と妖怪の違い、口裂け女と産女、皿屋敷、化物屋敷と下女、辻・橋・境の怪異、怪光と怪音、七不思議、通り悪魔と髪切りを、古文献や新聞記事、各地の伝承から読み解く。四章から成り、都市の空間に妖怪が現れる仕組みを軸に据える。