行灯の油をしゃぶる馬喰町の怪獣
どんな伝承か
寛政十一年の夏、六月に馬喰町七不思議というものがあったと『兎園小説』に記録されている。その一つは怪しい獣で、形はネズミに似ているが、ふつうのネズミよりもはなはだ大きく、胸から腹にかけて斑点があった。当時その名を知る者はなく、雷獣か蝦夷ネズミの類かと推察された。金八の長屋の向かいに住む老女が、ある宵、行灯の油をしゃぶるものを蚊帳の内から追ったが逃げず、恐ろしい獣だったので化け物だと騒いだ。金八らが追うと獣は金八の家に入り込み、蠟燭に噛みつこうとしたが、空になった米櫃に入れて捕えた。実は、ある人が長崎から求めて飼っていた異国の獣が、鉄の網を食い破って逃げ出したものだったという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
妖怪の民俗学――日本の見えない空間(宮田登・宮田登・民俗学・昭和(現代民俗学))
民俗学者・宮田登が、妖怪を『日本の見えない空間』の問題として論じた現代民俗学の名著。Ⅰ妖怪のとらえ方では、柳田国男『妖怪談義』の妖怪論(妖怪は出る場所が決まり、零落した神)と、幽霊(都市の人間関係から相手を追って出る)との区別、昭和五十四年に流行した口裂け女(受験社会で母に叱られる子供の心意の投影、『喰わず女房』の鬼女の再来)と産女、島根県松江の雲州皿屋敷のお菊、明治の井上円了の妖怪学と真怪・仮怪の分類を扱う。