銀座を歩く「生命無代進呈」の求職者
どんな伝承か
ネオンの輝く銀座の街を、背中に大きな紙をぶら下げて歩く男がいた。紙には生命無代進呈と大書され、意気に感じてくれる人が仕事をくれるなら命を賭けて働く、精神病者ではなく真剣な求職者だ、身体強健、身元確実と書き添えてあった。声をかけると男は、好きや冗談でやっているのではないと答えた。京都の立命館を中途で退き、大阪で巡査や店員を務めたが頑固がたたって職を失い、東海道を歩いて二週間前に上京し、いまは月島の救世軍に世話になっているという。不況下の求職合戦を映す街頭の姿だった。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本怪奇集成-明治大正昭和篇(富岡直方 編著)
『日本怪奇集成-明治大正昭和篇』は、富岡直方が編んだ怪奇実話集である。明治元年から昭和七年までに各地で起きた幽霊や狐狸の怪、畸形や奇病、天変や奇瑞、世相の珍事を、当時の新聞・雑誌の記事と筆者自身の聞き書きから集めている。明治・大正・昭和の三篇に分け、話ごとに年月を掲げて通し番号を振り、新聞記事を引いたうえで紙名を末尾に添える形を基本とする。