自分で死亡広告を書いた老人
どんな伝承か
六日の報知新聞に、黒枠つきの奇妙な死亡広告が出た。「今回天寿を以て昨日交友諸氏と永別する事に相成」と始まり、震災後に老夫婦で越ヶ谷へ転住し閑静の地で安眠できたのは各位の賜物だと礼を述べ、香典供物は辞退すると記して、亡米田三蔵・行年七十二歳、妻た美子の連名で出されている。奇であるのは、死んで行く人自身が臨終の床で震える手に筆を持って書いたものだという点である。同紙夕刊の社会面がこれを取り上げ、埼玉県越ヶ谷の家を訪ねると、多美子婆さんが語った。三蔵は震災前まで神田の辻屋という米問屋の主だったが、震災前後に子を失い家を焼かれて越ヶ谷へ移り、近年顔面静脈瘤にかかって三日に息を引き取ったという。
原典より
この死亡広告は、一眼見て、普通のものと異なるところに、誰しも奇を感じるに違いない。—— 日本怪奇集成-明治大正昭和篇(富岡直方 編著) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本怪奇集成-明治大正昭和篇(富岡直方 編著)
『日本怪奇集成-明治大正昭和篇』は、富岡直方が編んだ怪奇実話集である。明治元年から昭和七年までに各地で起きた幽霊や狐狸の怪、畸形や奇病、天変や奇瑞、世相の珍事を、当時の新聞・雑誌の記事と筆者自身の聞き書きから集めている。明治・大正・昭和の三篇に分け、話ごとに年月を掲げて通し番号を振り、新聞記事を引いたうえで紙名を末尾に添える形を基本とする。