きりばま街道で道を失う夜
どんな伝承か
明治の終わりごろ、仏浜の男が小良ヶ浜の漁港で用を済ませ、土産の鰹をかついで暗いきりばま街道を家路についた。途中でこの辺に近道があったはずだとつぶやくと、目の前に白くぼんやり続く道が現れた。天の助けと踏み込んだが藪ばかりで進めず、野ばらに絡まれて立ち止まった。すると今まで歩いてきた後ろの方から、ざぶんざぶんと波音がする。海は前にあるはずである。振り向いた拍子にたらの木の棘が頬を刺し、正気に返って狐に化かされたと悟った。来た道を戻ると、背中に狐が飛びかかって鰹を奪おうとしたので、藪へ振り落として一目散に逃げ帰ったという。
原典より
仏浜界隈では音に聞こえていた頑固者で、それ迄恐ろしいと思ったことのなかったわしも、この時ばかりはちいと冷汗を流したわい。—— 富岡町史 第3巻(考古・民俗編)――昔話と伝説(富岡町(編)・富岡町史) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
富岡町史 第3巻(考古・民俗編)――昔話と伝説(富岡町(編)・富岡町史)
『富岡町史 第3巻(考古・民俗編)――昔話と伝説』は、福島県富岡町の町史のうち考古・民俗を扱う巻で、ここにはその第九章「昔話と伝説」が収められている。昔話の節は昭和五十八年五月の福島県教育委員会による文化財基礎調査のまとめに町の既刊の話集から数編を加えたもので、麓山の白蛇や、大原の大吉・金平六など名のある狐の話が目立つ。伝説の節には朝賀城哀話、仏浜、戊辰戦争、鉱山、北風薬師などを収め、各話に伝承者の地区と名を添える。