鶴が引き留めた酒屋の長者
どんな伝承か
昔、下小浜に豪壮な邸を構え、代々酒屋を営む長者があった。この人はもと上総の生まれで、どのような訳かは分からないが、仙台地方へ移ろうと船で北へ向かった。出発に先立ち、日ごろ飼い馴らした一羽の鶴を連れて行くのは不憫と思い、大空へ放してやった。ところがこの鶴は主人の後を慕ってどこまでも追ってくる。船が小浜沖にさしかかると、鶴はいきなり陸地へ舞い下り、また急いで船へ飛び返って輪を描くことを何度も繰り返した。主人はこれはここに留まれと教えているのだと考え、意を決して下小浜へ上陸し、家を建てて酒造りを始めた。家運は日を追って栄え、ついに長者と呼ばれたという。
原典より
昔、下小浜に豪壮な邸に住まい、代々酒屋を業とする長者があった。—— 富岡町史 第3巻(考古・民俗編)――昔話と伝説(富岡町(編)・富岡町史) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
富岡町史 第3巻(考古・民俗編)――昔話と伝説(富岡町(編)・富岡町史)
『富岡町史 第3巻(考古・民俗編)――昔話と伝説』は、福島県富岡町の町史のうち考古・民俗を扱う巻で、ここにはその第九章「昔話と伝説」が収められている。昔話の節は昭和五十八年五月の福島県教育委員会による文化財基礎調査のまとめに町の既刊の話集から数編を加えたもので、麓山の白蛇や、大原の大吉・金平六など名のある狐の話が目立つ。伝説の節には朝賀城哀話、仏浜、戊辰戦争、鉱山、北風薬師などを収め、各話に伝承者の地区と名を添える。