大倉山の闇に響く地鳴り
どんな伝承か
川内道路がまだできていなかった明治の中頃まで、川内村との交通は富岡の町から清水原に出て滝の沢を過ぎ、赤木を通って大倉山の南麓をめぐる延長五里の山道であった。ここに一人の逓送人がいた。饅頭笠にわらじ脚絆の軽装で、郵便物を天秤棒の先にくくりつけ、駆け足で通ったものである。秋のある日、大倉山近くまで来ると生ぬるい風が吹いて提灯の火が消え、どどどうと大地を揺るがす地響きが起こった。全身が硬直し冷汗が背筋を流れる。火を入れ直して進むと同じことが二度三度と続いた。天秤棒を握りしめて身構えても怪物は姿を見せない。ようやく炭焼小屋に駆け込んで一夜を明かしたが、その正体はいまだに分からないという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
富岡町史 第3巻(考古・民俗編)――昔話と伝説(富岡町(編)・富岡町史)
『富岡町史 第3巻(考古・民俗編)――昔話と伝説』は、福島県富岡町の町史のうち考古・民俗を扱う巻で、ここにはその第九章「昔話と伝説」が収められている。昔話の節は昭和五十八年五月の福島県教育委員会による文化財基礎調査のまとめに町の既刊の話集から数編を加えたもので、麓山の白蛇や、大原の大吉・金平六など名のある狐の話が目立つ。伝説の節には朝賀城哀話、仏浜、戊辰戦争、鉱山、北風薬師などを収め、各話に伝承者の地区と名を添える。