大グモの穴から湧いた毒の清水
どんな伝承か
自証院の境内はかつてもっと広く、そこに得体の知れない化けものがいて、日暮れどきに道を通る女をさらうので人足が絶えた。三田に住む渡辺綱は薄化粧をして女の装いで道へ向かい、覆いかぶさる大木の上に黒い塊が動くのを見つける。垂れてきた紐に巻き取られて引き上げられるや、綱は懐の刀を抜いて斬りつけた。化けものは地響きを立てて落ちたが姿は消え、血の跡をたどると境内の土まんじゅうで途切れていた。翌朝掘ると二抱えもある大グモが死んでおり、その穴から湧いた清水を飲んだ村人は苦しんで死んだ。以後そこはクモの井戸と呼ばれ、誰も口をつけなかったという。
原典より
場所 市谷富久町一一八番地(クモ切坂)、ならびに富久小学校と成女学園の境時代 平安時代(年代不詳)むかしの自証院の境内は、もっと広大であった。—— 新宿と伝説(新宿区教育委員会・1969年(昭和44年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
新宿と伝説(新宿区教育委員会・1969年(昭和44年))
『新宿と伝説』は、新宿区教育委員会が昭和四十四年に編んだ区内の伝説集である。カッパが出る坂、四谷怪談のお岩、矢来町の化け石、女幽霊が掘った清水など、牛込・四谷・戸塚大久保・新宿・淀橋柏木落合の各地に伝わる六十二の伝説を、江戸の地誌や随筆などから採って収める。第一章で伝説の分布と型を概説し、第二章では地域別に、各話へ場所・時代・出典・解説・参考書を添える。