水の出ぬまま死んだ子と堀兼の井
どんな伝承か
妻に先立たれた男が、一人息子を抱えて後妻を迎えた。後妻はこの子をひどく疎み、夫が帰ると子どもの前でありもしないことを並べ立てた。父が叱りつけるのを、破れ襖の陰から小気味よさそうに眺めていたという。後妻の話を信じた父は、いたずらをする暇がないようにと庭先へ井戸を掘れと命じる。十二、三の子は素直に従ったが、細い腕では作業は進まず、父の留守には継母の厳しい目が光った。子は日ごとに痩せ衰え、水の出ないうちに死んでしまう。あまりの仕打ちを哀れんだ村人は、その井戸を堀兼の井と呼ぶようになった。
原典より
時代 江戸時代初期ここに男の子を一人残して、妻に先立たれた男が住んでいた。—— 新宿と伝説(新宿区教育委員会・1969年(昭和44年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
新宿と伝説(新宿区教育委員会・1969年(昭和44年))
『新宿と伝説』は、新宿区教育委員会が昭和四十四年に編んだ区内の伝説集である。カッパが出る坂、四谷怪談のお岩、矢来町の化け石、女幽霊が掘った清水など、牛込・四谷・戸塚大久保・新宿・淀橋柏木落合の各地に伝わる六十二の伝説を、江戸の地誌や随筆などから採って収める。第一章で伝説の分布と型を概説し、第二章では地域別に、各話へ場所・時代・出典・解説・参考書を添える。