持仏の誦経は蜂の羽音だった
どんな伝承か
安永のはじめ、本郷三念寺の門前町に住む軽輩の御家人の家で、持仏堂に据えた阿弥陀が、ひとりでに経を読むという噂が立った。ありがたがった老若が入れかわり立ちかわり仏壇を拝みに来る。ところが調べてみると、仏像の背にあたる壁の向こうは糀屋との境で、そこに蜂が巣を作っていた。朝も夕も子蜂が羽を鳴らす音が、経を誦する声に聞こえていたのである。一月あまりも続いた騒ぎは、皆で笑って終わった。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
科学的教養(小泉丹・小泉丹・科学論・昭和(戦中))
生物学者・小泉丹『科学的教養』(戦中刊)。国民の科学性とは科学知識の普及ではなく科学的態度であるとし、科学的・非科学的の境界を吟味したうえで、怪異談を科学的に検討する。