大田川の柳の根に座る河童
どんな伝承か
明治十六、七年ごろ、石見国安濃郡大田町の農夫春日徳次郎は、大田川の字樋の上の岸で何度か河童を見たという。幅三十間ほどの川の堤から向こう岸を見ると、二尺ばかりの猿に似たものが座っていた。現れる場所はいつも決まっていて、竹藪の下が岸ごとえぐれて深い淵になっており、その真上にある柳の根元が定位置だった。徳次郎は一人で見たのではなく、連れがいるときにはその人にも指さして見せたことがあったという。著者が石見東部で集めた明治以後の河童の実見談の一つである。
原典より
幅約卅間ある川の堤防から對岸に居るのを見るのに、二尺計りの猿に似て居つた。—— 動物界霊異誌(岡田建文・岡田建文・心霊研究・1927年(昭和2年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
動物界霊異誌(岡田建文・岡田建文・心霊研究・1927年(昭和2年))
『動物界霊異誌』は、岡田建文(蒼溟)が昭和二年に著し、郷土研究社から出した動物怪異の記録集である。二十余年にわたって集めた体験や同志の報告から、動物にまつわる怪異の事例を選び、山陰地方を中心とする明治・大正の見聞と、近世の随筆に見える記事を収める。蝦蟇・猫・河童・狐・狸と貉・外道(人狐)・蛇などの動物ごとに、解説・事例・古人の記述の順に並べ、心霊の立場からの考察を加える。