総泉寺の妖僧に化けた老狸
どんな伝承か
享保の頃、加州金沢浅野町の山屋藤兵衛という駕舁渡世の者が、江戸へ出て武州深谷の九兵衛と棒組みになり、武州総泉寺の病んだ老僧が京へ赴くのを乗せて北陸道を上った。この僧は姿が異相で八、九十歳ほどに見え、頭に物をかぶり墨衣を着け、寝食も駕籠の内で調え、言葉は少ないが金を水のように使った。山路は病に障るとして越中から海辺を伝い能登へ廻り、越前の橋立に至って人家の傍に駕籠を下ろすと、犬が多く吠え出し、白毛の狗が一匹飛来して駕籠に飛びつき、老僧の咽喉を咬えて引き出した。老僧は一声あっと叫んで死に、古狸の屍に変じたという。
原典より
舁夫も里人も大に驚き、先づ病 を介抱しけるが古き の屍に變じける。—— 動物界霊異誌(岡田建文・岡田建文・心霊研究・1927年(昭和2年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
動物界霊異誌(岡田建文・岡田建文・心霊研究・1927年(昭和2年))
『動物界霊異誌』は、岡田建文(蒼溟)が昭和二年に著し、郷土研究社から出した動物怪異の記録集である。二十余年にわたって集めた体験や同志の報告から、動物にまつわる怪異の事例を選び、山陰地方を中心とする明治・大正の見聞と、近世の随筆に見える記事を収める。蝦蟇・猫・河童・狐・狸と貉・外道(人狐)・蛇などの動物ごとに、解説・事例・古人の記述の順に並べ、心霊の立場からの考察を加える。