茶の湯の幻が現れる金屋の古座敷
どんな伝承か
『怪談年男』から引かれた話。備後の鞆の浦は九州・中国に並ぶもののない賑やかな港で、有倉町に金屋嘉平治という酒屋があった。その家の三間四方の美しい座敷には、いつの頃からか見慣れない調度が散らばっていたり、十二、三の美しい子が書を読んでいたり、俵が積まれていたり、武具馬具が飾られていたり、小法師が遊んでいたりした。壊そうとすると大工は目が開かず足がすくみ、祈禱の僧より尊い僧が現れるので手が出せなかった。噂を聞いた領主の侍たちが詰めて見張ると、老法師が見事な点前で茶の湯を催し、客は殿の側近だったが、たちまち消えた。領主は同じ刻限に茶人を招いて茶会をしていたと分かり、皆驚いたという。
原典より
此所に金屋嘉平治といふ酒屋あり、家富栄るが、この人のうちの一間に、最あやしき事あり、…—— 井上円了 妖怪学講義(井上円了 著・平野威馬雄 編) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
井上円了 妖怪学講義(井上円了 著・平野威馬雄 編)
『井上円了 妖怪学講義』は、明治期に哲学館で講じられた井上円了の『妖怪学講義』から要所を選び、平野威馬雄が現代の文章に改めて編んだ抄録である。狐憑きや化物屋敷、怪火、幽霊、コックリなどを題材に、円了が古書から抜き出した記事、各地から寄せられた報告、円了自身の現地での調べを収める。原著の八部門のうち理学・心理学・宗教学・雑の四部門を章に立て、序で研究の経緯と分類を、結びで編者の見方を述べる。