稲荷を名乗る狐憑き患者と体の黒斑
どんな伝承か
美濃国の山田大助の報告。その地方では、病で体が弱ったところに狐がつけこんで取り憑くとされる奇病にかかる者がしばしばあった。患者は自分はどこそこの稲荷だと名乗ったり、今朝ある家で油揚げをもらった、繭を食べたなどと口にしたりする。看護が厳しく他家へ出歩けるはずがないのに、先方に尋ねると本当にその事があったという。山田が接した患者の一人は加茂郡潮見村の柘植某の母で、病中はひどく勘が鋭く人の秘密まで言い当てたが、治ってから尋ねると何も覚えていなかった。ほかの患者は治らぬまま亡くなり、いずれも体に黒い斑が見られたという。
原典より
今其患者の言行を見るに、頗る奇怪なるものあり、…—— 井上円了 妖怪学講義(井上円了 著・平野威馬雄 編) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
井上円了 妖怪学講義(井上円了 著・平野威馬雄 編)
『井上円了 妖怪学講義』は、明治期に哲学館で講じられた井上円了の『妖怪学講義』から要所を選び、平野威馬雄が現代の文章に改めて編んだ抄録である。狐憑きや化物屋敷、怪火、幽霊、コックリなどを題材に、円了が古書から抜き出した記事、各地から寄せられた報告、円了自身の現地での調べを収める。原著の八部門のうち理学・心理学・宗教学・雑の四部門を章に立て、序で研究の経緯と分類を、結びで編者の見方を述べる。